リビングの空気は冷え切っていた。テレビの砂嵐のような雑音が響く中、部屋の中心にある古びた冷蔵庫の前に、彼らは集結していた。 目的はただ一つ。 白地に映える、最後の一つの『超濃厚高級カスタードプリンカラメルソース増量』。 「……おい。誰がそれを食べていいと言った?」 最初に威嚇の声を上げたのは、闇AUの首領、ナイトメアだった。全身からどろりとした負の感情を漂わせ、触手を苛立たしげに蠢かせる。 「ハッ、早い者勝ちだろ、ボス? 俺は今日、一日中マーダーのせいでイライラしてたんだ。糖分を補給する権利がある」 不敵な笑みを浮かべてナイフを弄ぶのはキラー。その隣では、すでにフードを深く被ったマーダーが、目から怪しい光を放ちながらガスターブラスターを展開しかけている。 「……オレの、プリン……」 ホラーが血の付いた巨大な斧を床に叩きつけた。床にピキッとヒビが入る。 「落ち着いてください、先輩方…。……そもそも、そのプリンは俺が買ってきたものですし…。」 クロスが巨大な大剣を構え、牽制するように一歩前に出た。 その時、リビングの空間がバグったように歪む。青い糸が天井から無数に伸び、冷蔵庫の取っ手に巻き付いた。 「「「「「エラー!!!」」」」」 全員の視線が、ソファの上でマフィンを食べながら不敵に笑うバグの骨、エラーへと向かう。 「ハッ、無駄話が多イんだよ、お前らハ。このプ、リ、ン、は俺が食うんだ……!」 「調子に乗るなよ、エラー!!」 キラーが文字通り「飛び出した」。超高速のナイフ捌きでエラーの糸を一本残らず切り刻む。 それを合図に、狭いリビングで大戦争が勃発した。 「死ね、キラー!!」 マーダーが召喚した無数の骨の弾幕が部屋を埋め尽くす。キラーはそれをアクロバティックに避けながら、マーダーの背後に回り込んでナイフを突き立てようとする。 「邪魔だ!!」 ナイトメアの触手が容赦なく二人をまとめて叩き伏せ、冷蔵庫へと伸びる。しかし、その触手はクロスのハックナイフによって真っ二つに両断された。 「ボス、悪いですがこれだけは譲れない……! あと元々俺のプリンです」 「身の程を知れ、クロス。俺の逆をいくというのなら、絶望の中でその甘ったれた考えを砕いてやろう」 ナイトメアの負のオーラが爆発し、部屋全体が漆黒の触手で埋め尽くされる。 「だからそのプリン俺が買ってきた俺のプr」 そこへ、ホラーが咆哮を上げて突っ込んだ。 「肉……じゃなくて、プリン!!!」 凄まじい怪力で放たれた斧の一撃が、ナイトメアの触手を強引に引き裂き、冷蔵庫の扉を粉々に破壊した。 衝撃波で全員が吹き飛ぶ。煙が立ち込める中、一同の視線は壊れた冷蔵庫の内部へと注がれた。 むき出しになった棚。そこには、奇跡的に無傷のまま佇む、あのプラスチック容器。 神々しく輝く、黄色いカスタード。 「「「「「今だ!!!!!」」」」」 全員が理性を捨て、プリン目掛けて手を伸ばした。 ナイトメアの触手、エラーの糸、キラーのナイフ、マーダーの骨、ホラーの巨体、クロスの大剣が、完全に一点へと集中する。 ズドォォォォォン!!!!! アジトの壁が吹き飛ぶほどの爆発音が響き渡った。 凄まじい土煙。全員が息を荒くしながら、互いを睨みつけ、そして――全員の手が、何にも触れていないことに気づいた。 「……あ?」 煙が晴れる。 そこには、跡形もなく消え去ったプリンの容器。 そして、爆心地の中心。 いつの間にかそこに立っていたのは、一人の、全く別の骨だった。 「うん! やっぱりこのプリン、すごく美味しいね!」 バニラビーンズの黒い粒がついたスプーンをくわえ、幸せそうに頬を緩めているのは、AUの守護者――インクだった。 足元には、彼の巨大な筆と、空っぽになったプリンのカップが転がっている。 「「「「「イ、インクゥゥゥッ!!!!!」」」」」 「え? あ、みんな揃ってどうしたの? 怖い顔して。……あ、もしかしてこれ、誰かのだった?」 悪びれもせず、小首を傾げるインク。 次の瞬間、闇AUの面々の目が、完全に「本気の殺意」へと変わった。 エラーの体から警告音が鳴り響き、ナイトメアの触手が限界まで膨れ上がる。キラーの目が狂気に染まり、マーダーとホラーの武器が赤く光る。クロスは無言で剣を握り直した。 「あ、用事を思い出したから帰るね! バイバイ!」 その殺意に圧倒され、インクがインク溜まりに飛び込もうとした瞬間、部屋中の空間がエラーの糸とナイトメアの触手で完全にロックされた。 「「「「「逃がすか、ボケェェェ!!!!!」」」」」 プリンの怨みは恐ろしい。 その日、インクがかつてないほどの危機に陥り、アジトが完全に崩壊したのは言うまでもなかった。 完。
手ミー「*ミルクプリン…ウマウマ!」 クロス「あ!!そのミルクプリンも俺の…」