*少量の改変を承知の上でお読みください* 深夜。 月明かりの下、黒い海を一隻の巨大な艦が進んでいた。 全長八百三十メートル。 満載排水量八十一万四千トンを超える、まさに海上要塞。 高輪連邦帝國海軍第一皇室艦隊・総旗艦 超戦艦《クラル》。 その艦橋に、倉本結城は立っていた。 「……今日も海は綺麗やねぇ」 いつもの明るい笑顔。 腰には愛用の日本刀。 彼女は艦長として、そして《クラル》そのものを象徴する存在として、静かに前方を見つめていた。 「艦長、前方海域に異常ありません」 「そっか。なら、次はこれをやらないと」 結城が指揮卓に視線を落とした。 ――その時。 『警報! 高速飛翔体接近!』 「……え?」 艦橋の空気が変わった。 『方位二一〇! 高度二万五千! 速度、推定マッハ3以上!』 「航空機!?」 『識別不能! レーダー反射極小!』 結城の表情から笑みが消えた。 「なんしてくれよっと?」 空を見上げる。 だが、何も見えない。 実際には、遥か上空を一機の異形の戦闘機が飛んでいた。 ――Vengakuq-13。 ステルスコーティングに覆われた機体は、夜空に溶け込むように《クラル》へ接近していた。 その操縦席に「いる」のは、まだ幼い少女。 しかし、その目は迷いがなかった。 「目標、確認」 Vengakuq-13のレーダーが、遠距離から《クラル》の巨大な船体を捉える。 「距離、120キロ」 電子戦システムが起動。 《クラル》のレーダーへ欺瞞信号が送り込まれる。 『目標数、増加!』 『何だこれは!?』 『偽装目標です!』 CICが混乱する。 「全艦、対空戦闘!」 結城が叫んだ。 「高角砲、撃て!」 次の瞬間。 32基の十二糎連装高角砲が一斉に火を噴いた。 夜空が昼間のように明るくなる。 Vengakuq-13は、まだ見えない。 「……どこ!?」 結城が叫ぶ。 その瞬間、警報が鳴った。 『ミサイル接近!』 六発のAIM-120 AMRAAMが飛来。 さらにADDMによる攻撃が続く。 「迎撃!」 垂直噴進弾発射筒から迎撃弾が次々と発射された。 数十、数百の飛翔体が夜空を交差する。 最初のAMRAAMが迎撃弾に撃ち落とされた。 二発目も撃墜。 三発目――。 しかし、残りが《クラル》へ迫る。 ドォォン! 艦上で爆発が起きた。 「左舷対空区画、被弾!」 「消火急げ!」 「まだ来ます!」 第二波。 Vengakuq-13は遠距離からの攻撃だけで《クラル》の防空能力を少しずつ削っていく。 そして突然――。 『敵機、レーダーから消失!』 「……消えた?」 結城が眉をひそめる。 だが、それは撤退ではなかった。 Vengakuq-13は高度を下げ、海面すれすれを高速飛行していた。 「……来る」 結城が呟いた。 「こっちへ来る!」 海面から一気に上昇。 Vengakuq-13が《クラル》の側面へ躍り出た。 「なんしよっと!?」 艦橋から、その機影が初めて確認できた。 そして主翼下から二基の兵器が展開する。 二つの「手」が《クラル》の船体を左右から襲いかかった。 ガシャン! 「な……!?」 艦体が大きく揺れる。 「敵兵器、船体を攻撃しています!」 「振りほどけ!」 《クラル》が最大速力へ。 38ノット。 巨大な船体が海面を激しく切り裂く。 しかしRevengehandは離れない。 「何なの、あれ……!」 次の瞬間。 Revengehandから艦内のシステムへ侵入が始まった。 『不正アクセス!』 『艦内システムに異常!』 『対処不能!』 「八咫鏡!」 結城が叫ぶ。 戦術AI《八咫鏡》が即座に対応。 艦内ネットワークを分割し、侵入経路を遮断する。 「……止めた?」 結城が息をつく。 だが。 『新たな異常!』 「なして!?」 Revengehandが赤く発光する。 接触部分の装甲温度が急上昇。 「熱源反応、急上昇!」 「まずい!」 巨大な装甲が、まるで熱せられた鉄のように赤く染まる。 Revengehandは艦体を掴んだまま、その装甲を溶断し始めた。 「装甲が……!」 数十センチ、数メートル。 厚い装甲が徐々に切り裂かれていく。 「隔壁閉鎖!」 結城が命令する。 「機関区画を守って!」 だが、その時だった。 Vengakuq-13が突然離脱した。 「……?」 《クラル》が追撃を試みる。 「主砲、敵機を狙って!」 七基の八十センチ三連装超電磁砲が旋回。 「撃てぇぇぇっ!」 轟音。 巨大な砲弾が夜空を切り裂いた。 だがVengakuq-13は急旋回。 そのまま上昇し、砲弾を紙一重で回避する。 「化け物……!」 結城が呟く。 Vengakuq-13は反転。 今度は《クラル》の上空から急降下する。 「攻撃開始」 機体内部の20mm機銃が火を噴く。 対空レーダーやセンサー、露出した兵装設備を正確に狙い撃つ。 さらに残っていたミサイルが放たれた。 爆発。 爆発。 爆発。 《クラル》の艦上構造物が次々と吹き飛ぶ。 「CIC通信不能!」 「航空管制、機能低下!」 「右舷レーダー喪失!」 「消火設備、一部停止!」 艦内は完全な混乱状態になった。 それでも《クラル》は沈まない。 「……まだや」 結城が立ち上がる。 髪を振り乱しながら、日本刀の柄を握った。 「まだ、うちはこの艦を沈ませへん!」 八十センチ砲が再び旋回する。 残存する対空火器もVengakuq-13へ集中。 数百の弾丸と迎撃弾が空へ飛ぶ。 しかしVengakuq-13は電子戦装置を使用。 レーダー画面に無数の偽目標が出現する。 『識別不能!』 そして本物のVengakuq-13は――《クラル》の真正面。 「……そこか!」 結城が気付いた。 だが、もう遅い。 Vengakuq-13は速度を落とさない。 内部兵装から最後のミサイル群を放つ。 そして、再びRevengehandを展開。 「Revengehand、行って」 二つの兵器が艦首付近を挟み込む。 そして高熱。 装甲を溶かしながら内部へ侵入する。 『艦首区画、重大損傷!』 『浸水発生!』 『機関区画にも異常!』 《クラル》の船体が大きく傾いた。 「そんな……」 結城が呟く。 「まだ……」 船体が軋む。 数十万トンの鋼鉄が悲鳴を上げる。 やがて主電源が落ちた。 艦内の照明が消える。 非常灯だけが赤く点滅している。 「……そ、そんな……」 結城の手から力が抜けた。 「なにが悪かったんや……」 誰も答えない。 海水が浸水区画を満たしていく。 艦尾がゆっくりと沈み始めた。 「総員退艦!」 最後の命令が艦内に響く。 救命艇が次々と海へ降ろされる。 結城も艦橋を離れる。 最後に一度だけ振り返った。 「……今まで、ありがとね」 巨大な《クラル》は、もう戦えなかった。 艦首が海へ沈み、巨大な船体が徐々に海面へ角度をつけていく。 そして――。 轟音とともに、八百三十メートルの総旗艦は海中へ消えた。 海面に残ったのは、無数の残骸と油膜。 その上空を、Vengakuq-13が静かに飛んでいる。 機体には目立った損傷はない。 操縦席の少女は、眼下の海を見つめた。 「……目標、撃沈」 「Λ-system本部へ、作戦成功。」 「これで良かったんですか…?」 Vengakuq-13は上昇。 加速し、夜空の彼方へ消えていった。 海上には、蒼光戦隊の総旗艦だった《クラル》の姿はもうなかった。 ただ静かな波だけが、何事もなかったかのように夜の海を揺らしていた。 筆者より なんかごめん。航空機VS艦船がよーわからんかった