静かだと思った。夏の湿った風が吹き抜ける、月明かりに照らされた魔道。僕の目の前にはナイフを携えた女が一人。手には生ぬるい感触。明るい闇夜の中、僕と彼女は一対のナイフを携え横たわった男を見つめ高々と笑った。 一年前、九条拓巳 “おいあいつ見ろよ、なっさけねぇ顔しやがって。ほら、さっさとたてやこのチー牛が” “ねぇみてみてきっも、なんであーなるのかなwね〜” “おい気色悪いんだよ。さっさと消えろ!” なんでこういうことになったか。僕にもわからない。痛い。苦しい。やめてくれ、もう、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ_ ゴシュッ、ゴン。 硬い、重いものがぶつかる嫌な音がする。かろうじて目を開ける。 目の前は、真っ赤だった。 机の角から滴る赤い液体、地面に広がった僕の血と知らない血。そして変な方向へと曲がってしまった首。この散々たる光景を前に、僕は周囲のざわめきすら耳に入らなくなっていた。 一年前、黒岩 雫 全くもってこんな案件など受け持ちたくない。絶対にだ。 時は昨日までに遡る。私はおそらく人生で最も暇で、最も幸福であろう時間を謳歌していた。お気に入りのブラックコーヒー片手にお気に入りのジャズを聴き、お気に入りの小説を読みながらくつろぐ。もっとも、そんな時間など一瞬で崩れ去ってしまうものだ。 「先輩!先輩先輩先輩先輩先輩!!」 悪魔が静寂を切り裂いてやってきた。 「っんだようっせぇな、今休んでんの見えないの?」 「案件です。」気だるげな返事におかしなテンションではっきりと返すこのガキは田宮静流 私の後輩だ。流石に案件となると仕方がないので机から足を下ろし片耳からイヤホンを抜き出して話を聞く。 「今回はなんなの?」 「え〜と、要約すると静岡の高校でいじめられた生徒が誤っていじめっ子を殺しちゃったみたいです。」 「グロすぎんだろ、え、なに私が担当なの?」 「もちろん!じゃ、先輩、あとはよろしくお願いします」 そう言って悪魔はそそくさと部屋から出て行った。 仕方がない。優雅なひと時を終え、資料に目を通して私は現場へと向かう。 「なんだよこれ…」 現場について飛び出た第一声。本来なら言葉すら出ないほどだが私の体はまだ耐えているようだ。 教室内。なぜこれが容認されていたのか不思議でならない。 どす黒く染まった壁、飛び散った血液の跡。手前の血溜まりの跡は殺された側のものだろうか。それにしてもあまりにも酷い。私にこの案件は重すぎるのかもしれない。弁護など務まるのだろうか。 そして今日の正午ごろに私は彼、九条拓巳との面談を行なった。 実際に会ってみるとさらに酷い。腫れた顔にドス黒い痣。荒れた肌に正気を失ったような目。意を決して話しかける。 「初めまして、九条くん。私は黒岩雫、あなたの弁護人です。」 返事はない。完全に魂の抜け殻のようだ。 「えーっと、まず何があったか、説明してもらえるかな?もちろん嫌ならいいので。」 枯れた唇がかすかに動く。 「僕が殺してしまったんですよね。」 声を絞り出したかのように、静かに彼は話した。正直返答に困る。 「ああ。残念だがそうだよ。防犯カメラ等から確認したけど。死因は転倒時に頭を打ちさらに頭に全体重がかかってしまったこと。まぁつまり当たりどころが悪かった、って話だね。」 ここは正直に話す。彼がどう捉えるか。 「あの時、頭の中が真っ赤になりました。痛くて、苦しくて、何も覚えていません。覚えているのは僕の手の感触とごつんとという音、そしてあの時の光景だけです。」 なんてこった、重すぎる。さてどうしようか。 数分後、ひとまず会話を終えて、一息つく。 とりああえず一旦引き換えそう、時間も時間だ。 「そうか、辛かったようだね。えーと、じゃぁとりあえず今回は一旦終わりにしようか。時間も時間だし、また来るよ。」 「はい、さようなら」 青空の下、澄んだ空気を吸ってやっと正気に戻る。今まで殺人ならみてきたが未成年のあれだけ悲惨な事件は初めてだ。あぁ。全くもってこんな案件など受け持ちたくない。絶対にだ。
今回はガチ目にダークなヤバ目の話です。苦手な方は閲覧注意。まだ序盤しか執筆してないんですけどね