――――地下は、昔から寒かったわけじゃない。 〜かつての地下〜 もちろん、Snowdinには雪が降っていた。 けれど、それは今みたいな、触れたものすべてを凍らせるような寒さじゃなかった。 雪は冷たかった。 風も冷たかった。 それでも、そこにはちゃんと温かさがあった。 家の中には暖炉があって、店には明かりがついていて、道を歩けば誰かの声が聞こえた。 笑い声。 話し声。 くだらない言い争い。 そんなものが、地下のあちこちにあった。 俺は、そういう日々が嫌いじゃなかった。 ……むしろ、好きだったんだと思う。 特に、弟と過ごす時間は。 「兄ちゃん! 早くして!」 後ろから聞こえる声に、俺は振り返る。 そこには、いつものPapyrusがいた。 「papyrusが先に行きすぎなんだよ。」 「何を言う! オレサマは普通に歩いているだけだぞ!」 「はいはい。」 「はいは一回だ!」 そんなやり取りをしながら、俺たちはSnowdinの道を歩いていた。 いつもと変わらない日だった。 雪が降って。 風が吹いて。 誰かが笑っている。 当たり前すぎて、その一日がいつまでも続くような気がしていた。 ……当たり前っていうのは、不思議なものだ。 失ってからじゃないと、その大切さに気づけない。 あの頃の俺は、そんなことを考えもしなかった。 地下には、まだ熱があった。 イビト山が、地下世界に温もりを与えていた。 Hotlandは名前の通り暑くて、Waterfallの水は凍らずに流れていた。 Snowdinの雪も、ちゃんと雪のままだった。 そして、俺たちはそれを当然のものとして受け入れていた。 ……あの日までは。 〜異変〜 # Chapter 1 異変 ……あの日までは。 最初に異変に気づいたのは、たぶん俺じゃない。 誰かが言った。 「最近、少し寒くないか」と。 その時の俺は、たいして気にしなかった。 Snowdinに住んでいるんだ。 寒いのなんて、いつものことだ。 「冬が来たんじゃない?」なんて適当に返して、それで終わった。 けれど、数日経っても寒さは弱まらなかった。 それどころか、少しずつ強くなっていた。 暖炉の火が、以前より小さく見えた。 町の人たちは、いつもより長い時間、暖炉のそばにいるようになった。 店の中も、少しずつ冷えていった。 最初は、誰もそれを深刻には考えていなかった。 俺たちはモンスターだ。 多少の寒さくらいなら耐えられる。 そう思っていた。 ……そう思いたかったのかもしれない。 ある日、Papyrusと一緒にWaterfallへ行った。 そこで、俺は初めて「おかしい」と思った。 水面に、薄い氷が張っていた。 「Sans。」 Papyrusが、水面を見つめながら言った。 「Waterfallが凍っているぞ。」 「ああ。」 「これは普通なのか?」 「……いや。」 俺は答えた。 「たぶん、普通じゃない。」 Waterfallの水は、流れているはずだった。 どれだけ寒くても、あそこが完全に凍ることなんてなかった。 その日から、地下のあちこちで異変が起こり始めた。 Hotlandの温度が下がった。 溶岩の勢いが弱くなった。 植物が育たなくなった。 そして、イビト山の熱が少しずつ失われていることが分かった。 最初は小さな変化だった。 でも、日が経つほどに、それははっきりしていった。 イビト山が、眠り始めていた。 地下世界を温めていた熱が、消えていく。 それが何を意味するのか。 その頃の俺たちは、まだ分かっていなかった。 ただ、寒くなっただけ。 最初は、そう思っていた。 毛布を増やせばいい。 暖炉に薪をくべればいい。 みんなで寄り添っていればいい。 そんなふうに考えていた。 けれど、地下の寒さは俺たちの想像よりずっと早く広がっていった。 Snowdinでは、雪が溶けなくなった。 Waterfallでは、水が凍り始めた。 Hotlandでは、炎が弱くなった。 そして、モンスターたちは少しずつ動けなくなっていった。 寒さは、ただ体を冷やすだけじゃなかった。 魔法まで弱らせていった。 誰かが倒れるたびに、町の空気が重くなった。 それでも、みんな何とかしようとしていた。 暖房を作った。 火を集めた。 温かい食べ物を分け合った。 少しでも長く生きられるように。 ……でも。 それだけじゃ、足りなかった。 ある日、王国の研究者たちがひとつの事実を見つけた。 モンスターには、親しい相手へ自分のSOULの温もりを分け与える力がある。 誰かを大切に思う気持ちが、文字通り相手を温める力になる。 それは、本来ならとても優しい力だった。 けれど、この状況では違った。 誰かを温めれば、その分だけ自分が冷える。 自分を削って、相手を生かす。 そんな力だった。 その話を聞いた日の夜。 俺はPapyrusと二人で家にいた。 暖炉の火は、いつもより小さかった。 Papyrusは黙って、その火を見つめていた。 「……兄ちゃん。」 「ん?」 「もし、もっと寒くなったら。」 Papyrusは少しだけ間を置いた。 「ボクが兄ちゃんを温めるよ。」 俺は笑った。 ……たぶん、笑ったつもりだった。 「やめとけよ。」 「なぜだ?」 「お前まで寒くなるだろ。」 「でも、兄ちゃんが寒いのも嫌だ。」 Papyrusは、いつものように真っ直ぐだった。 俺は何も言えなかった。 ただ、暖炉の小さな火を見ていた。 その時はまだ知らなかった。 あの言葉が。 あいつの運命を変えることになるなんて。 〜温もり〜 # Chapter 1 温もり あの日から、Papyrusは俺のそばにいる時間が増えた。 理由は、聞かなくても分かっていた。 寒かったからだ。 地下の温度は、日に日に下がっていた。 暖炉に火を入れても、すぐに消えてしまう。 毛布を何枚重ねても、身体の奥に入り込んだ冷たさは消えなかった。 俺も、少しずつ動くのが億劫になっていた。 そんなある日のことだった。 「Sans。」 Papyrusが俺の手を握った。 「……何だ?」 「じっとしていてくれ。」 「いやな予感しかしないんだけど。」 「いいから!」 Papyrusは真剣な顔をしていた。 次の瞬間。 身体の奥に、ほんの少しだけ温かさを感じた。 冷え切った身体に、小さな火が灯ったようだった。 「……Papyrus。」 「どうだ?」 「……暖かい。」 その言葉を聞いて、Papyrusは笑った。 「そうだろう!」 俺は手を離そうとした。 「もういい。」 「なぜだ?」 「お前が冷える。」 「ボクなら大丈夫だ!」 「大丈夫じゃないだろ。」 Papyrusの身体は、少し震えていた。 それでも、手を離そうとはしなかった。 「兄ちゃんが暖かくなるなら、それでいい。」 ……困った弟だ。 昔から、そうだった。 自分のことより、誰かのことを優先する。 俺はそれ以上、何も言えなかった。 それから、Papyrusは毎日のように俺へ温もりを分けてくれた。 少しずつ。 ほんの少しずつ。 俺が寒がるたびに。 俺が動けなくなるたびに。 「今日は少し多めにしておいたぞ!」 「……やりすぎ。」 「兄ちゃんは心配性だな!」 「お前が心配なんだよ。」 そう言うと、Papyrusは少し照れたように笑った。 俺は、その笑顔を見るのが好きだった。 だから、気づかなかった。 Papyrusの温もりが、少しずつ減っていることに。 * そんな日々が続いていた頃。 地下に、ひとつの知らせが届いた。 「人間が落ちてきたらしい」 久しぶりに聞いた言葉だった。 人間。 俺たちモンスターにとって、それは昔から特別な存在だった。 けれど、その時の俺はあまり興味がなかった。 地下がこんな状態になっている。 そんな時に、人間が一人落ちてきたところで、何が変わる。 そう思っていた。 Papyrusは違った。 「人間だって!?」 目を輝かせていた。 「もしかしたら、友達になれるかもしれないぞ!」 「……お前らしいな。」 「当然だ!」 俺は笑った。 ほんの少しだけ。 そして、その人間は地下を歩き始めた。 Ruins。 Snowdin。 Waterfall。 Hotland。 いろいろな場所を通って。 いろいろなモンスターと出会って。 やがて、俺たちのところにも来た。 Papyrusは、その人間と友達になろうとしていた。 俺は、それを少し離れたところから見ていた。 ……あいつは、本当に変わらない。 世界がどれだけ寒くなっても。 自分がどれだけ弱っても。 誰かを信じることだけは、やめなかった。 そして、その人間は地下の王のもとへ向かった。 俺たちには、それが何を意味するのか分からなかった。 ただひとつ分かっていたのは。 その人間が、地下に落ちてきた最後の人間になるということだった。 undertale by Toby fox 氏 DTFE by Team DTFE 好評だったらpapyrus編作る