「わぁ……!」 コロンは目の前にそびえ立つ巨大な建物を見上げた。 そこには、この国でも名の知れた紋章が掲げられている。 ここは――この世界で最も強いとされる魔法道場。 魔法だけではない。 剣術、体術、戦闘魔法。 あらゆる戦闘技術を極めた者たちが集まり、数多くの優秀な騎士を輩出してきた、世界屈指の名門道場だった。 「お兄ちゃん、ここが今日行くところ?」 「ああ。父上が、一度二人の実力を見てもらうといいって」 「楽しそう!」 コロンが目を輝かせる。 「でも、無理はするなよ?」 「大丈夫だよ!」 「本当に?」 「うん!」 ノエルは少し心配そうに妹を見る。 ――コロンはまだ四歳。 いくら規格外の魔力を持っているとはいえ、自分にとっては大切な妹だ。 少しでも危険があれば、すぐに自分が守る。 それがノエルにとっては当たり前だった。 「じゃあ、行こう!」 「うん」 二人は道場の中へ入っていった。 ◆ 「……ん?」 「子供?」 「なんでここに?」 二人が訓練場へ入った瞬間、周囲の門下生たちから視線が集まった。 この道場にいるのは、ほとんどが成人。 二人の姿は明らかに場違いだった。 「おいおい、見学に来たのか?」 「それとも誰かの弟妹か?」 そんな声が聞こえてくる。 すると、奥から一人の男が歩いてきた。 白髪交じりの髪。 鍛え抜かれた身体。 そして、鋭い眼差し。 この道場を長年率いてきた師匠だった。 「お前たち」 二人の前で立ち止まる。 「何歳だ?」 ノエルが答える。 「俺は十二歳です」 そしてコロンが元気よく手を挙げた。 「私は四歳!」 「…………」 師匠が固まった。 「……四歳?」 「うん!」 「……そっちは十二歳?」 「はい」 師匠は二人を交互に見る。 「……兄妹か?」 「そうです」 「お兄ちゃん!」 コロンがノエルの腕に抱きつく。 ノエルは嬉しそうに妹の頭を撫でた。 「どうした? 怖くなったか?」 「ううん! 全然!」 「そうか。ならいい」 二人の様子を見ていた師匠は、少しだけ眉をひそめた。 「……この道場を遊び場と勘違いしているわけではないな?」 「もちろんです」 ノエルが答える。 「父上から、ここで実力を見てもらうように言われています」 「なるほど」 師匠は腕を組んだ。 「ならば話は早い」 そして訓練場を指差した。 「実力を見せてもらおう」 「はい」 「やったー!」 コロンが嬉しそうに駆けていく。 「コロン、転ぶなよ」 「大丈夫!」 「……本当に大丈夫かな」 ノエルは妹を見つめながら小さくため息をついた。 ◆ 最初に呼ばれたのはノエルだった。 相手は二十代半ばの男性。 この道場でもかなりの実力者だ。 「子供相手とはいえ、油断するなよ」 師匠が言う。 「分かっています」 男が構える。 ノエルも構えた。 「始め!」 ――次の瞬間。 ドンッ!! 「え?」 男の身体が宙を舞った。 ドサッ!! 訓練場が静まり返る。 「…………」 ノエルは何事もなかったように立っていた。 「ありがとうございました」 「…………は?」 男が地面から起き上がる。 「今……何が起きた?」 「見えなかった……」 「十二歳だぞ……?」 門下生たちがざわめき始める。 師匠も目を細めた。 「……次」 二人目。 三人目。 四人目。 結果は―― 全員、瞬殺。 「…………」 「…………」 「…………」 誰も言葉を発せなくなった。 ノエルは首を傾げる。 「もう終わりですか?」 「…………」 師匠は無言でコロンを見る。 「次は……妹だ」 「私?」 コロンが自分を指差す。 「そうだ」 「分かった!」 コロンが前へ出る。 「お兄ちゃん、頑張ってね!」 「いや、コロンが戦うんだぞ」 「あっ」 「……大丈夫か?」 「大丈夫!」 ノエルは妹の頭を撫でる。 「無理するなよ」 「うん!」 完全に妹を心配する兄の顔だった。 その様子を見ていた門下生の一人が呟く。 「……あれだけ強いのに、妹には甘いんだな」 「そこは普通の十二歳なんだな……」 ◆ コロンの相手も二十代の男性。 この道場の門下生の中でも上位に入る実力者だった。 「……本当に、この子とやるんですか?」 「やれ」 「しかし――」 「いいからやれ」 「……分かりました」 男が構える。 コロンも構えた。 「始め!」 男が一気に距離を詰める。 「お兄ちゃん!」 「ん?」 「今日の晩ご飯なにかな?」 「……今それ聞く?」 ノエルが苦笑する。 その瞬間。 男の拳がコロンへ迫る。 だが―― コロンはノエルを見たまま、ひょいっと身体を横へずらした。 拳が空を切る。 「危ないよ?」 「なっ!?」 男が驚く。 コロンはそのまま、またノエルを見る。 「お兄ちゃん、ケーキ食べたい!」 「夕飯の後ならな」 「やった!」 「いや、まだ決まってないからな?」 「決まった!」 「決まってない」 その間にも男は必死に攻撃を繰り出す。 しかし―― 全部当たらない。 コロンは相手をほとんど見ていない。 一歩。 半歩。 身体を傾ける。 それだけで全ての攻撃をかわしてしまう。 「なんでだよ!?」 男が叫ぶ。 「なんでこっちを見ない!?」 コロンはきょとんとする。 「だって、お兄ちゃんと話してるから」 「理由になってない!!」 そして―― コロンが軽く指を動かした。 ドンッ!! 「ぐはっ!」 男が吹き飛ぶ。 「……」 「……」 「……」 道場が静まり返った。 コロンはぺこっと頭を下げる。 「ありがとうございました!」 ノエルは妹に駆け寄った。 「コロン、大丈夫か?」 「うん!」 「どこか痛くない?」 「全然!」 「そうか。よかった」 ノエルは安心したように笑った。 その姿を見た師匠は、深く息を吐いた。 「……とんでもない兄妹だな」 ◆ 「魔力を測らせてもらう」 師匠がそう言うと、道場の奥から巨大な魔力測定器が運ばれてきた。 「まずはノエル」 「はい」 ノエルが手を置く。 装置が光る。 数字がどんどん上昇していく。 「……?」 「…………」 「…………」 ピピピピピッ!! 突然、警告音が鳴り響いた。 『測定不能』 「…………」 師匠が無言になる。 「壊れたんですか?」 ノエルが聞く。 「……いや」 「じゃあ、もう一度やります?」 「そうしてくれ」 別の測定器が運ばれてくる。 再測定。 ――結果。 『測定不能』 「…………」 師匠は頭を抱えた。 「次……コロン」 「はーい!」 コロンが測定器に手を置く。 瞬間。 バチィッ!! 「わっ!」 凄まじい光が訓練場を包む。 「な、なんだ!?」 「まぶしい!」 「測定器が……!」 ピシッ。 装置に亀裂が入る。 そして―― バキィッ!! 測定器が壊れた。 「…………」 「…………」 コロンが恐る恐る聞く。 「……壊れちゃった?」 師匠が震える声で答える。 「……お前が壊したんだよ!!」 「えぇ!?」 道場中に師匠の叫び声が響き渡った。 ◆ その後、なんとか別の方法で二人の魔力量を測定した。 結果は―― どちらも、年齢からは考えられないほどの膨大な魔力量。 特にコロンに至っては、測定した者たちですら理解できない領域だった。壊れるくらい 師匠はしばらく黙り込んでいたが、やがて二人の前に立つ。 「……お前たち」 「はい」 「王直属騎士隊に来る気はないか?」 「王直属騎士隊?」 ノエルが聞き返す。 「ああ」 師匠は真剣な顔で続けた。 「王直属騎士隊は、この国で最も高貴な仕事の一つだ。選ばれるのは、ほんの一握り。上位0.1%ほどの人間しか就くことができない」 「……」 「お前たちには、その資格がある」 ノエルは少し考えた。 そして―― 「……すみません」 頭を下げる。 「俺は学校があるので」 「…………」 師匠が固まった。 「学校?」 「はい」 「……王直属騎士隊より?」 「学校がありますから」 「…………」 師匠はしばらく沈黙した。 そして―― 「ならば!」 突然、ノエルの両肩を掴む。 「学校側には私から話をつける!」 「え?」 「毎日来いとは言わん!」 「……」 「学校がある日は学校へ行け!」 「はい」 「空いている時間だけでいい!」 師匠の目が本気だった。 「だから……頼む!!」 「そこまで言うなら……」 ノエルは少し考える。 「空いている時だけなら…」 「本当か!?」 師匠の顔が一気に明るくなった。 「学校にも私から話をつける! 安心しろ!」 「ありがとうございます」 ノエルが頭を下げる。 その隣で、コロンも笑顔で頭を下げた。 「よろしくお願いします!」 そして―― (ひゃっほーい兄貴ィ!! 一生ついていきますぜ⤴︎) コロンの心の中では、謎のテンションが爆発していた。 しかし表情は、いつもの可愛らしい笑顔。 「……コロン?」 「なーに? お兄ちゃん!」 「いや、なんかすごく嬉しそうだなって」 「うん! お兄ちゃんと一緒だから!」 「……!」 ノエルの顔が一瞬で緩む。 「そ、そうか……!」 「うん!」 「じゃあ、これからもずっと一緒だな!」 「うん!」 「絶対に俺が守るからな!」 「えへへ!」 その光景を見ていた門下生たちは―― 「……」 「……」 「……」 「師匠」 「なんだ」 「この兄妹……」 「ああ」 師匠は遠い目をした。 「……想像以上だ」 こうして―― 世界最強と呼ばれる道場に、 四歳の少女と十二歳の少年が通うことになった。 この二人が後に、この国の歴史を大きく変える存在になることを―― この時、まだ誰も知らなかった。
はい久しぶりですね遅れてすみませんね〜 イラストスランプでして〜 なんか首なしの気持ち悪い存在になってますが 許してください可愛いコロンちゃんには 変わらないから!ね!?!? 1話 https://scratch.mit.edu/projects/1370172647 2話 https://scratch.mit.edu/projects/1370182580 3話 https://scratch.mit.edu/projects/1370201740 4話 https://scratch.mit.edu/projects/1370203586 5話 https://scratch.mit.edu/projects/1370206773 6話 https://scratch.mit.edu/projects/1370211201