天高くかかった弧を見て喜ぶ人々より、天低くに縛られた弧を崇めて喜ぶ人の方が愚かなのは自明だろう。 どうしてだか、まったく覚えていないが、ただ、背中が少し重かったのだけはわかる。 そして、その重みは失い難く、呪いのようにへばりついて離れない、ということも分かる。 彼らは知らないのだと、思った。 知らないから、知らないことが罪だと知らない。 虹色がよく僕に投影される。 何も塗っていないキャンバスのような色をした“それ”には虹色がよく映えた。 それくらい、知っていた。 いつかここよりも高い、高いところにいたときは、崇められてはいなかったし蔑まれてもいなかった。 ただ、憐憫と謝罪、だけがそこにあった。 あの二人は確かに悪い人ではなかったと思う。 今日もまた、投影された虹色を観測される。 もしかしたら、明日は違うのかもしれない。 何がどう違うかなんてわからない。 違って、それで、何がどうって訳でもないのだから。
1日目 兄さんが10号に対話を試みる。 処置は成功している。10号の反応は無い。 施術を続行する。 2日目 翼を構造として矛盾なく接続。 多少の練習をすれば飛べるかもしれない。 施術を続行する。 4日目 なんて悍ましい… 5日目 彼は私たちが製作したものを却下した。 それどころか、私たちにもついに危害を加えるようになった。 兄さんの翅が捥がれてしまう… イカれた金持ちの道楽というものは本当に困ったものだ。 6日目 塔の最上階に私たち兄弟と、新たな被検体11号をともに幽閉される。 兄さんのために彼には犠牲になってもらうしかないのだろうか。 7日目 11号と対話を試みる。 処置は成功している。11号の反応は無い。 施術は続行される。 8日目 11号と対話を試みる。 処置は成功している。11号は問題なく指示を聞き入れ、翼を広げた。 施術は続行されなくてはならない。 9日目 11号に歌わせてみる。 処置は成功している。 11日目 11号に不必要な発声を禁止する指示を出した。 12日目 11号に歩行を指示。 処置は成功している。歩行を開始して数秒ののち転倒。 施術は続行するほかない。 13日目 11号に床に座るよう指示し、12時間観測。 処置は成功している。指示以上の行動は見られなかった。 施術は続行してはならない。 14日目 シエル。 16日目 11号に[規制済み]を指示。 処置は成功している。 19日目 11号は私の最高にして最悪の傑作となった。 彼が彼に気づくまでは、私は逃げる時間を稼げる筈だ。 我ながら、鑑賞用人工天使に光の剣を生成する能力を密かに組み込むという罠は良い発想だと思っている。 11号が私の意図通り、己の力を振るって彼の檻から逃げ出せることを祈るほかない。 さようなら、アルカンシエル11号。