「はぁ……。なんで私がこんな格好してなきゃいけないわけ?」水瀬蓮(みなせ れん)は、大きめの黒い学ランの襟をキュッと引っ張りながら、大きくため息をついた。青い毛並みに、少し眠たげで不機嫌そうな瞳。彼女は学校の屋上へと続く階段の踊り場で、ひとり壁に背を預けていた。女子生徒が学ランを着る。それだけで校内では目立つというのに、彼女の持つ独特のクールな雰囲気も手伝って、周囲からは「一匹狼のカッコいい先輩」として勝手に憧れられてしまっている。しかし、本人の頭の中はいたってシンプルで、そして少々めんどくさがりだった。「ただの、制服のサイズ間違えなのに……」そう、事の始まりは単なる業者側の手違いだった。届いたのはなぜか男子用の学ラン。返品して買い直すのも面倒だし、「まあ、これでいいか」とそのまま着て登校した結果がこれだ。ポケットに両手を突っ込み、けだるげに歩き出す。カツ、カツとローファーの音が静かな廊下に響く。「あ、水瀬先輩……!」階段を降りたところで、下級生らしき女子生徒とすれ違った。女子生徒は蓮の姿を見るなり、ぽっと頬を赤らめてペコリとお辞儀をする。蓮は特に表情を変えず、ただ「うす」とだけ短く言って、小さく手を挙げた。それだけの仕草なのに、去り際に後ろから「今の見た!? やっぱり水瀬先輩、超イケメン……!」という黄色い声が聞こえてくる。(イケメンじゃなくて、女子なんだけどな……)蓮は心の中でこっそりツッコミを入れながら、ふっと小さく口元を緩めた。勘違いされるのは少し気恥ずかしいけれど、まあ、悪くはない。夕日に照らされた青い髪を揺らしながら、蓮は今日もマイペースに、学ランのポケットに手を突っ込んで家路につくのだった。