前章↓ https://scratch.mit.edu/studios/29586791/ 剣を持ち、立っているロット。 その瞳はおぼろげで、体も、まるで操り人形のように見える。 糸が切れてしまえば動かなくなってしまいそうだった。 「ロット...くん、なんで...」 "リーダー"の問いかけに対して、ロットは何も答えない。...答えられない。 「話しかけたって、答えやしないよ。本人は眠っているんだから」 「は...?」 「丁度いいのがあったからね。この鎖を壊せるまで、君達の相手になってもらおうと思って」 『ロット』は剣を"リーダー"と"おこげ"に向かって飛ばし始める。矢や弾丸も次々と飛んでいく。 「ロットくん!起きてくれっ!」 "リーダー"は攻撃を防ぎながら、何度も何度もロットの名を呼ぶ。 しかし、『ロット』に変化は見られず、次々に攻撃をしかけてくる。 「あの動き...!だめロットくん!起きて!!このままじゃ、あなたの体がっ...!」 "おこげ"は『ロット』の体を止めようと走り出すーーー しかし、その前を一本の剣が妨げる。 「だめだって〜、君の相手はこっち」 7Kがにこりと笑いかける。 「君の手の中にある"それ"...そのままにしておく訳にはいかないからね」 ジャラジャラと金属音が鳴り響いた刹那、"おこげ"の左腕を光線が貫く。 「...っ!?」 チャリンと何かが落ちる音がした。 「それを使って何をしようとしてたのかは気になるとこだけど...そろそろタイムオーバーだ、あの子を待たせてしまうからね」 「あの子......?」 "おこげ"は左腕を押さえながら、その言葉を呟く。 「何の話をーーー」 "おこげ"が問いただそうとしたその時、7Kが手を空高く掲げる。 「そうだ、いいことを思いついた...元に戻してしまおう」 「元に......?・・・っ!?あなたまさか...!」 7Kはまたにっこりと笑う。7Kへ向かって走り出した"おこげ"の姿を眺めながら、手を鳴らすーーー パチン 「ど、どうなってるの...!時間が止まってるなんて...!」 「分かんねぇ...!!さっきから何が起きてるのかさっぱり......!!」 カナ、アスカ、ホルの三人は、試合会場へ戻ろうと急いで走っていた。 アスカは怪我をしているため...ホルがアスカを抱えながら。 「とっ、とにかく、私たちもロットとエイトくんのところに急ごう!!何かがおかしいよ......!いくらロットでも、これじゃ無事でいるかどうか......!」 「やめてよアスカっ...!そんなこと......」 「ごっ、ごめん!!でもっ...心配だよ......!」 アスカは下を向き、手を強く握る。 「アスカは自分の怪我の心配をしろよっ!その怪我だって...あいつにつけられたようなものだろっ!」 「その言い方はあんまりだよホル!ホルだって...カナちゃんだって、分かってるでしょ!ロットは、私達を守ろうとしてくれたんだよ...!ロットは不器用だけど、仲間思いで優しいって...仲間なんだから分かるでしょう!?」 「でも...アスカ......」 アスカはカナとホルの瞳をじっと見つめる。その瞳には涙が溜まっているようにも見えた。 「っ...!ごめんアスカ...分かってる...分かってるよ...!」 「謝るならロットでしょっ!」 「そうだよな...ごめん...本当にごめん...」 ホルは深呼吸をして、口を開く。 「俺さぁ......初めてあいつに会った時...怖いやつだって、思ってたんだ」 はは、と申し訳なさそうな声を出して、話を続ける。 「でも違ったんだ...絡んでいくうちに分かったよ。あいつは不器用なだけでーーーーというか本当に不器用だよなあいつ、最初の頃何を伝えようとしているのかさっぱりだったわ......」 「いや...それは......」 カナもアスカも、何か言葉を繋げようとしたが......結局何も言えなかった。 「ははは、でもさ、仲間思いなのは本当に分かるよ。アスカの言う通りだ......それに、仲間思いすぎて、自分のことを後回しにしがちなのも...」 「...うん」 「後で謝らないとな...今日のことに、これまでのことも」 「ホル・・・・・・・・・うん、そうだね。私も謝らないとだな......」 「......うん」 話し終えると、視界が開けた。・・・・・・試合会場だ。 「あっ!ハチちゃんだ!エイトくんもいる!」 おーい、ハチちゃん!とカナが手を振る。 しかし、二人の様子を見たアスカが言う。 「・・・・・・待って、何か様子が...」 「はあっ、はあっ、はあっ、はぁっ......!!」 「ハチちゃん!?大丈夫?息切れしてるけど...!」 ハチが駆け寄り、カナの手を握る。 「にっ、逃げて...逃げてください!早くしないとっ...」 「ちょちょちょ、ちょっと待って!どういうこと...?一体何が...」 アスカがハチの後ろにいるエイトの顔を見る。 「ね、ねぇ...エイトくん......ハチちゃん...?ロットは...?ロットはどうしたの......?」 「ロット、さん.....?」 エイトはその名を反復して口にだす。 「ロット、さんは......っ!」 カナの手を握るハチの手が震えていく。 「ハチちゃん...?大丈夫...?一体何があったの...?ろ、ロットは......」 「・・・・・・・・・・・・」 アスカの体を、恐怖が駆け巡っていく。 「アスカ......?大丈夫か...?」 「い、嫌な予感がする...!」 アスカが辺りを見回す。 ・・・・・・ハチの息切れが、辺りに鳴り響いている。 「皆っ!伏せてっ!!」 「えっ......?何ーーーー」 直後、周囲を衝撃波が通り抜けていく。 「っ!?」 ハチとエイトの体を守るように、カナ、アスカ、ホルが覆い被さる。 「衝撃波......?中央からだ...皆無事か!?」 「大丈夫です...!ありがとうございます!」 「アスカ、ナイス!やっぱり予知能力というか感知能力というかは、アスカが一番だね!」 アスカはほっとしたような顔をする。...しかしすぐに焦った表情に戻る。 「二人とも...指示を聞いてくれてありがとう...!でも...」 「今のは一体.....?ああ、もう!さっきから分かんないことだらけだ...」 「さっき...そうだ!観客の人たちは!?無事!?」 カナがそう言った直後、会場内に人々の喧騒が響き渡る。 「えっ...何...!?どうなって...時間が流れ始めたの!?」 「時間が流れ......?」 「そうなのハチちゃん!えっと...さっきまで、観客の人たち皆動かなかったの!ヘリコプターも!まるで時間が止まってるみたいに......」 五人の間に得体の知れない不安が過ぎる。 「一回...会場を見に行こう!」 「そうだね...!」 「アスカさん... カナさん...!?駄目です、今行っては...!」 ハチがアスカ、カナの腕を掴む。ハチの顔には恐怖が現れていた。 「ハチちゃん...?」 「おい、見ろ!」 ホルの一声で、全員が会場へ目を向ける。 そこには、ロットの姿が見えた。 「ロットっ...!」 アスカが会場の中央へ向かって走り出して行ってしまう。 「あっ、ちょ...アスカっ!!」 カナ、ホルもそれに続く。 「駄目、です...!今行ったら...!」 ハチの表情に焦りが見える。 「行こう、僕達も... 」 ハチがエイトの方を見る。 「どっ、どうして・・・」 「なんだか今は......"見届けなければいけない"ような気がするんだ......」 「っえ......?」 エイトがハチの手を握る。 「ごめん...ユイ......ごめんね...」 「♪・・・♪ ♪・・・・・・♪・・・♪〜」 7Kが歌を口ずさむ。バキという音がして、鎖が崩れる。 「あはは、危なかった〜。流石にやばいと思った」 足に絡まった鎖を、ジャラジャラと鳴らしながら取っていく。 髪の間から見えた瞳は、禍々しく...神秘的にも思えた。 「はっ...はっ...うっ...ぐ...」 "おこげ"は膝をつく。...視界は7Kを捉え続けていた。 「げほっ...げほっ...げほ...」 "リーダー"には絶えず『ロット』の攻撃が降り注いでいる。 「ロット... くん...だめだ...あの衝撃波を受けて...まだそんなに動いてしまえば...!」 げほっ、と『ロット』も咳をする。体のあちこちに痛々しい傷があるというのに、まだ動き続けていた。 「ロットくん...!駄目だ...止まって...」 "リーダー"へ『ロット』が再び攻撃をしようとする。剣を振り上げ、その体を引き裂かんとする。 「駄目だ...駄目・・・!」 その瞬間、ロットの体の動きが止まる。 "リーダー"は『ロット』を見つめていた。 「ロット...ダメ!」 アスカがその腕をしっかりと握っている。 「話してたの、私達......ロットは仲間思いだけど...!自分のことを顧みないところがあるから...」 「アスカっ!!」 アスカを追いかけて、カナも走ってくる。 「だから...もっと自分のことを大切にしてほしいなって!そう思って...だからダメだよ...」 「アスカっ!しっかり!怪我がひどくなっちゃう!」 アスカの体をカナが支える。...ロットの体は止まったままだ。 「...っ、そうだよ...私も思ってたの!ロットってさぁ...不器用すぎる!仲間思いだなとも思ってたけどさ...!仲間を大切にする前に...自分を大切にしてよ......」 ロットの体が、カナとアスカの方を向く。 ...目には光が宿っているように見えた。 「・・・あ...?俺..俺は...、何して...」 『な、なぁ、何が起きたんだ...?』 『うーん、わかんね!』 『あの化け物チームのリーダーが...』 『なんか見えなかったさっき!』 観客の騒いでいる声が、先刻よりも聞こえるようになってきた。 パチ、パチ、パチ・・・ 拍手の音が聞こえる。音の聞こえる方を向くと、7Kがこちらへ歩いてくるところだった。 「感動シーンのところ申し訳ないけれど...そろそろ幕下ろしの時間なんだ」 髪で隠れていた瞳がはっきりとあらわになり、それまでとは違った恐怖が辺りを包み込む。 「お前...っ!」 「ああ、君はお呼ばれじゃないんだよ、お医者さん」 7Kが指を鳴らすと、"リーダー"の体に、先ほどまで7Kを縛っていた鎖が絡まっていく。 「っ、くそ...!」 「中々手の込んだ遊びだったね。結構危なかったよ」 7Kはまた指を鳴らす。 パチン!と、耳をつんざくような音が鳴り響く。 「っ!?うっ...ぐ...」 ロットが耳を抑え、床に座り込む。汗が顔を伝っていく。 視界が歪み、ぼやけ、ついには目を閉じてしまった。 「ロット!」 走ってきたホルがロットの体を支える。 コツコツと靴の音が鳴り、ホルの視界に影が落ちる。 「申し訳ないけれど...そいつを持ち帰らないとなんだよね」 ホルは7Kの瞳を見た。まるで冬の夜の海のように、底の見えない瞳をしている。 「誰だ」 ホルはブキを手に警戒する。 「そうだなぁ...そいつの古い友人...とでも言っておこうか」 7Kは笑い、続ける。 「そいつをここで処理しようかと思っていたが...予想外のことが多かった、もう帰らないとね」 言い終わると、7Kの手にロットが抱えられていた。 ホルは目を見開き、ロットがいたはずの背後を振り返る。 「じゃあね、それじゃ」 「待っ・・・!」 『待てっ!!!』 ホルの言葉を遮るように声が響く。 エスノとタスキが7Kの前に立ち塞がった。 「逃がさない...!逃がさないぞ...!」 「あ〜君たちもいるんだったね。邪魔だなぁ...」 7Kがため息をつく。そして何かを思いついたような仕草をする。
「そうだ、丁度この劇を見ている観客もいることだし・・・」 そう言って、ハチとエイトが走ってくる方角を向く。 「!?何...こっちを見てる...!」 ハチはエイトの手を握る。ブキを手に取り、呼吸を落ち着ける。 7Kはにこりと笑い、"何か"を見つめていた。 手をかかげる。 「ハチちゃーん!」 突如名を呼ばれる。ハチの頬に汗が伝う。 振り向くと、そこには・・・ 「ナ・・・フ...?」 「ハチちゃーーん!おーい!」 ハチは走り出す。恐怖がハチの体を駆け巡っていく。 「逃げてっ!!お願い!逃げて!!!」 ハチは必死に声を出す。何度も何度も。 その場に残ったエイトは、7Kの姿を見つめ続けた後ーーーその顔に驚愕の感情が現れる。 「思い、出した...お前っ...お前は・・・・・・」 7Kが不敵な笑みを浮かべた。 直後、周囲を真っ暗な闇が包み込む。一瞬にして、人々の意識も、記憶も、全てを奪っていく。 「ーーーーーっ!」 エイトは7Kを見つめ続けた。その笑みが消え、空っぽな心が現れ、その姿が暗闇に消えていくまで。 光が完全に途絶え、周りを暗闇だけが支配する。 甘い匂いが鼻をつく。 目を閉じる。 『あの歌をもう一度聴きたいな・・・』 『いつか本当の星を見るの』 『待ってください!お願い!!』 『ずっとみんなでーーー』 『どちら様・・・・・・』 『置いていかないで!!!』 『私はきっと...このために...』 いつかの記憶が駆け巡る。最後の言葉が聞こえる。 「っえ......?」 時間が経ち、気がつくと、そこには"いつもの風景"があった。 【第三十話終わり 第三十一話に続く】