夕暮れ時の教室で、ある中学生が1人、ノートパソコンの画面を見つめていた。 ブラウザに表示されているのは、おなじみの青い背景のWebサイト。画面の右上には、オンラインでの分身であるユーザー名が輝いている。 「hi_scratch5046」それが、この世界で名乗っている名前だった。 学校での自分は、目立たない、どこにでもいる普通の生徒だ。しかし、この画面の前に座り、キーボードに手を置いた瞬間、何にでもなれる万能のクリエイターへと変貌する。 「よし、今夜こそ『あのバグ』を直すぞ」 今取り組んでいるのは、数ヶ月前から開発を続けている本格派のアクションRPG『コード・オブ・レガシー』。 美しいドット絵、滑らかな操作性、そして何よりプレイヤーを飽きさせない壮大なストーリーが特徴の自信作だ。 しかし、昨日共有(公開)した体験版のコメント欄に、1通の通知が届いていた。 『hi_scratch5046さん、いつも神ゲーをありがとうございます! でも、ステージ3のボスを倒した瞬間、画面が真っ暗になって動かなくなっちゃいました……。修正お願いします!』フォロワーからのバグ報告だった。 画面をスクロールし、複雑に組み合わさったカラフルなブロックの山へと視線を落とす。 「変だな、イベントの連動は完璧なはずなのに」「【メッセージ1】を受け取ったとき」「【変数を1ずつ変える】」「【もし〜なら】」何百行にも及ぶブロックの海を泳ぐように、指先が動く。原因を探る作業は、まるで暗闇の中で1本の細い糸を手探りで探すようなものだ。 時計の針が午後7時を回った。何度もテストプレイを繰り返し、プログラムの挙動を追いかける。 「あ……これだ」思わず声を上げた。 ボスのHPが0になった瞬間に送られるはずの「ステージクリア」のメッセージが、クローンの削除処理のタイミングと衝突して、一瞬だけ早く消滅してしまっていたのだ。 ほんのわずかな順序のズレ。それがゲームの世界をフリーズさせていた原因だった。ブロックを1つ、カチッと音を立てるように並び替える。もう一度テストプレイ。ボスを倒すと、今度は美しいエフェクトと共に、無事に次のステージへの扉が開いた。「直った……!」胸の奥から湧き上がる達成感。 これだからプログラミングはやめられない。すぐに変更を保存し、「プロジェクトページを見る」のボタンを押した。そして、コメントをくれたユーザーへの返信をタイピングする。 『バグを修正しました! 教えてくれてありがとう。楽しんでね!』「共有」ボタンが緑色に光り、新しいコードが世界へと放たれた。 数分後、画面の右上にある「キャット(猫)」のアイコンの横に、新しい通知を示す数字の「1」が灯った。『直ってる! さすがhi_scratch5046さん、対応が早すぎて神です!』画面の向こうにいる見知らぬ誰かが、自分の作った世界を楽しんでいる。 その事実が、心をじんわりと温める。 現実の通知表には書かれない、誰にも知られていないもう一つの顔。 「hi_scratch5046」は、今夜も画面の向こうの仲間たちと繋がりながら、まだ見ぬ新しい世界を創造し続けている。
※実際はそんなにプログラミング上手くないです 協力:GoogleAI