お母さんと喧嘩した翌日。 家の空気は重いけれど、昨日よりは少しマシな気がした。 みゆは学校へ行き、帰ってきて、 玄関を開けた瞬間に気づいた。 家の中が、静かすぎる。 テレビの音も、台所の物音も、 お母さんの咳払いも、 なにもない。 「……ただいま」 返事はない。 でも、家の奥からかすかに何かが聞こえた。 みゆは靴を脱ぎ、 ゆっくり廊下を進む。 お母さんの部屋の前で、 小さな「カリ…カリ…」という音がした。 みゆ 「お母さん?」 返事はない。 代わりに、カリ…カリ…という音が少しだけ速くなる。 みゆは怖くなり、部屋のドアを開けた。 中には、お母さんがいた。 机に向かって、壁を爪でひっかいていた。 「……なにしてるの?」 お母さんは振り返らない。 ただ、壁をひっかき続ける。 カリ…カリ…カリ… 「声が、減っていくのよ」 みゆは息を止めた。 「昨日の喧嘩で、たくさん声を使ったでしょう? 怒鳴ったり、泣いたり。 声ってね、使うと減るのよ。 体の中から、少しずつ削れていくの」 みゆ 「そんなわけ……」 言いかけた瞬間、 お母さんが振り返った。 その顔は、昨日よりもずっと疲れていた。 目の下のクマが濃く、 頬はこけて、 唇は乾いてひび割れている。 「ほら、聞こえるでしょう?」 みゆは耳を澄ませた。 家のあちこちから、 小さな声が漏れていた。 昨日の自分の怒鳴り声。 お母さんの泣き声。 ドアを閉めた音。 足音。 息を荒げた音。 それらが、壁の中で、 床の下で、 天井の裏で、 かすかに繰り返されている。 「声はね、家に吸われるの。 そして、私たちの声は減っていく。 だから補わないといけないのよ」 お母さんは壁をひっかく手を止め、 みゆの方へゆっくり歩いてきた。 「みゆ。あなたの声、少しちょうだい」 みゆは後ずさった。 喉が急に乾いて、声が出ない。 お母さんはみゆの肩を掴み、 耳元でささやいた。 「昨日のあなたの声、すごく美味しかった」 みゆは叫ぼうとした。 でも声が出ない。 喉の奥が空っぽで、 息だけが漏れる。 お母さんはみゆの喉に手を当て、 ゆっくり押した。 「ねえ、みゆ。 あなた、昨日たくさん怒ったでしょう? そのぶん、声が減ってるのよ。 だから、もっとちょうだい」 みゆの視界が揺れた。 頭が重くなり、 体がだるくなっていく。 声が、 抜けていく。 家の壁が、 床が、 天井が、 みゆの小さな悲鳴を吸い込んでいく。 お母さんは微笑んだ。 昨日よりも、ずっと静かな声で。 「ありがとう。 これで、少し楽になるわ」 ____________。 翌日、みゆは学校を休んだ。 声がほとんど出なくなっていたから。 家の中では、 昨日の喧嘩の声がまだ響いている。 そしてその中に、 みゆの弱々しい声が混じっていた。 「……やめて……やめて……」 家はそれを嬉しそうに吸い込んでいた。
イラストは自分で描きました。 なんか色々とおかしい((((^p^ copilotに生成してもらいました★ ※※※ホラー小説です!!!!※※※ 制作時間:10分((