下の小説を読んで (次の話から、物語がカオスコメディになります。)
始動篇 1話 創生記 始動編 この話はこの世界の始まりに関する物語。 まだ、何もない世界。宇宙が生まれるよりも、もっと前。 時間も方向も、なにもかもが存在しない虚無がそこにはあった。 そこは、概念すら眠る完全なる静寂。 その静寂の中心で、ぽつりと揺らめく微かな意志が芽生えた。 それが“ノア“ ノアは象牙の様に白く透き通る髪をなびかせ、 星々の輝きを織り込んだかのような法衣を身に纏っていた。 幼い少年ほどの小さな体躯を持つ、まだ生まれたばかりの神。 だが、存在した瞬間から、彼の周囲には変化が生まれた。 ノアが瞬きをすれば“時間”が流れ、 ノアが息を吸えば“空間”が広がり、 ノアが息を吐けば“可能性”が満ち、 いずれ、人に”宇宙”と言われる次元、 ”s-1次元”が誕生した。 しかし、どれほど世界の種を撒いても、 ノアの胸にはひとつの感情が残っていた。 ――寂しさ。 「この広がりを、一緒に見てくれる誰かがほしいな」 そう呟いた瞬間、ノアの願いは形を取り、 深淵からもうひとつの光が生まれた。 それはゆっくりと人の姿を形作る。 ノアと同じ象牙の様な白い髪。 白と黒の法衣を纏っているその存在は、 静かな眼差しでノアを見ていた。 ノアより少し大きく、頼もしげな存在。 ノアが“兄”と呼びたくなるような存在。 それが“kh0616“ ノアとkh0616が手を取り合い、世界の変化を見ていた頃。 ノアの頭を彩る通りに、星が生まれ、銀河が生まれ、 その様をkh0616は見守っていた。 そして、二柱が気付いた時には、 何億年いや、何十億年は過ぎていた。 その時、ノアはこう考えた。 ノア「僕も見たことがないような星があれば面白いだろうなぁ」 ノアが口ずさんだ直後、 一つの星が そこに生まれた。 その惑星をノアが見た時、 宝石の様に目が光った。 ノアが心を躍らせたその星は、深く瑞々しい青色の惑星だった。 ノア「こんな僕が見たかった様な星だよ!」 kh0616「そうだな。この星を暫く見ていようか。」 その星はノアが”現実に居たら面白い”と思った物があちこちにあった。 渦の殻を家にしたイカが海を漂い、 三つ重ねの葉っぱを背負った虫とちくわのの様な白いサンゴ礁が海を彩る。 それらを青銅の鐘を被った鮫が狙っていた。 暫く経つと先ほどとは変わって、 二本足で立つ鰐が地上を見下ろし、 束子の毛をした象が雪原を揺るがしていた。 そしてもう暫く経つと、 白と黒の熊が笹を食べ、墨の様な黒の空飛ばぬ鳥が海を泳ぐ。 そして、 ノアと同等。いや、それ以上の想像力を持った毛の無い猿がこの星に現れた。 ノア 「…凄いね、kh。この星には沢山面白いものがある。」 kh0616 「そうだな。この星がこの面白さを保ち続ければいいな。」 ――こうして、二柱が語らう間にも、 毛無き猿は衣服をまとい始め、火を操り、薬を生み出した。 やがて、それらを文字や絵として記し、知識を次の世代へ受け継ぐようになる。 その猿――いや、人類は、一歩ずつ、また一歩ずつ文明という楔を世界へ打ち続けていた。 そうして長い時が流れ、人類がついに十九世紀に至った時――。 今も、これからも、ノアは兄であるkh0616と共に地球を見守っている――。 ……はずだった。 ただその時―― 空へ落ちていき、 弾け散った三つの流星が、 それぞれの地に舞い降りた。 一つは皆への小さな贈物の為、 氷に覆われた北極の一軒家の前。 白い光が空から降りてきて、一軒家の前に着地する。 光は形を取り、小さな鴇色のタコリンへと変わった。 家から出てきた三十代半ばの男性が、そっと赤い帽子をかぶせると、 そのタコリンは“サンタタコリン”として息を吹き返した。 一つは皆への和みの為、 同じ頃、賑やかな公園にも別の光が落ちる。 それは全身が黄色く、目を閉じた天使のような暖かさを持ったタコリン。 “天使タコリン“へと姿を変え、寂しげな少女に寄り添うように話しかけた。 一つは蛸の願いへの応えを、 ノアの目の前にも、光が降りる。 形を成したそれは、眠ったままの墨のように黒く、目はマシュマロのように白い“ゴミタコリン”。 ノアが見つめた瞬間、風にさらわれるようにどこかへ飛んでいった。 眠るゴミタコリンの夢は、そのまま現実となる。 彼―ゴミタコリンの無意識が描いた世界に、 小さくて丸く、ぴいぴい鳴き、様々な特徴を持つ“タコリン”たちが次々と生まれた。 若葉色の草タコリンが草むらを隠れ家にして、 前から飛び出した牙タコリンが虫を仕留め、青緑の体を太陽で照らす。 その奥の木に留まる木タコリンが木の実を齧って、 木の下のキノコを茸タコリンが頬張っていた。 そして、 天使タコリンは人々の心を穏やかにし、 サンタタコリンは小さな幸せを世界へ運ぶ。 その影響は確かに広がり、 タコリンたちが世界に広がり、 その完成した世界は時期に“s-1次元“と呼ばれるようになる。 ―これから― ―世界の運命は塗り替わる― ―この世界の物語― ―蛸鈴物語は始まる― ノアはその光景を、最初は誇らしげに眺めていた。 自分が積んでいった“世界”の成り行きが、 優しさと平和という形で実ったのだから。 しかし―― 束の間に、ノアの胸に別の感情が芽生え始める。 「……なんだか、物足りないな」 平和は美しい。 だが、 自分が扱えない世界は、ノアにとっては“ガラクタ”と同じだった。 幼い神であるノアは、 もっと“自由“を求めてしまう。 その気持ちを、兄、 kh0616 に打ち明ける。 「ねえ、kh。 ぼく、もうひとつ世界を作ってみたいんだ」 kh0616 は静かに頷く。 ノアの願いを否定することはない。 むしろ、ノアの成長を見守るように受け止めた。 そして―― ノアは新たな宇宙を創造する。 それが “k-1次元”。 タコリンたちが生まれた世界とはまったく違う、 ノアの新しい好奇心と衝動が詰め込まれた世界。 そこには、 まだ誰も知らない法則、 まだ誰も見たことのない生命、 まだ誰も触れたことのない可能性が眠っている。 に続く。