____いやぁぁぁぁぁ!いかないでっ…いかないでっ…! あぁ…苦しい。 何度味わっても堪えきれないこの痛み。 だがそれと同じぐらいこの娘も辛いんだろう… そう思えた。 _________________________ 「おはよう、スバル、調子は…どう?」 もはや見飽きた天井。そして聞き飽きた言葉。 「あぁ、おはよう…よく眠れたよ…。」 そして言い飽きた台詞。 何でだろうか。こんなに苦しいのに、こんなに孤独なのに、なぜか満足感があるのは。 「ね、スバル。今日、とてもいい天気だからお散歩…しに行かない?」 俺が寝ているベッドサイドで座っている少女は言う。 一度目の俺はこれで死んだ。散歩に行けばペテルギウスの野郎が来るのは分かっている。 「あー、いいねー。でもあれだな、俺はエミリアたんとお屋敷の中でイチャイチャしたいな〜」 「なっ!そんな恥ずかしいこと言わないで!とりあえず外に出たくないってことは分かったから!」 …。なんだこの可愛い生き物は。何度見ても目を疑う。 だがそろそろ来る。ヤツが。幸せを奪いに。 ________ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンンガラガラガラ… 「きゃっ!?…何の音っ?」 ヤツ…そう。レグルスだ。 「エミリア!ここから逃げるぞ!」 「どこに?!どうやって?!」 そうなるのも無理もない。動揺していると思考能力は圧倒的に低下する。俺だって最初は動揺しすぎて支離滅裂な作戦を立てたものだ。死に戻りの能力がなければ1000回やって1000回やられる、いや、10000回やって10000回やられる自信がある。 「エミリア…!俺を信じてくれ!」 だが今のところエミリアには無条件に俺を信じてもらうしかない。 「分かった…スバルのこと…信じてみる…!」 「よし!そう決まればこっちだ!付いてこい!」 「うん!」 今までとは完全に違うルートを通っている。前回は扉を左に出たがためにヤツと鉢合わせした。頭の中であいつの移動経路を辿り、そこと絶対に被らないようにルートを… 「どこへ行くんだい?スバルくん。」 「なっ…?」 「えっ…?」 階段の下でレグルスが不愉快な笑みを浮かべて立っている。 なんでこいつがここにいるんだ?まさか気づいたのか…? 「おっとこれは僕の花嫁ちゃんじゃあないか、君は僕の花嫁を連れてどこへ行くつもりなんだい?また邪魔をする気なのかい?」 「…お前の花嫁…?笑わせてくれるな、お前なんかにエミリアはやるかよ!」 「エミリアは…!俺の嫁だ!!!」 「ちょっスバル…?!」 言ってしまった。だがもう後には引けない。 「君は何を言ってるんだい?僕と彼女が結ばれるのは運命の定めなんだ。君がそれをねじまげることは出来ない。だいたい僕と彼女の素晴らしい運命を君が壊すというのは他者の権利の侵害だ!たった僕の、無欲な僕の…権利の侵害だ!流石の僕も怒りを覚えるよ…。そんなに死にたいのか!」 はぁ。馬鹿らしい。ノミ以下と言われるのも妥当だ。 「死にたいとは大仰なことを言ってくれるじゃねぇか…。死ぬのはお前だ…!レグルス!」 「そうかい。じゃあ始めようじゃないか。今度こそ後悔させてあげるよ。」 だが俺の戦闘能力はヤツには到底及ばない。 このまま行けば即死するのは目に見えている。 どうすればいいのか… 「そこまでだぁね。」 ロズワール?!なんでまた…。 「…。ピエロくん。なぜ君は人に話しかける前に自己紹介がでk…」 「どうもぉ、ワタシはロズワール・L・メイザースと言うんだぁね。まぁ大体ロズワールかメイザース辺境伯と呼ばれるんだぁね。」 「…そうだ。それでいいんだ!」 なんか馬鹿らしいな、いや馬鹿か。 「それよぉりも、うちのエミリアさまを返してはいただぁけないですかぁねぇ?」 「それは無理だ。彼女は僕と結ばれることが運命で決まっている運命の人なのだから。」 お前に運命の人なんかいねぇよ。さっさと野垂れ死ね。 「それぇはまことに残念だぁね。じゃあ実力行使といこうかぁね。」 その瞬間、ロズワールはこっちに目配せした。 そして俺は悟った。ロズワールは捨て身の囮を買って出たのだと。できればロズワールを見捨てたくはなかった。だがそれ以外に逃げる道はない。そして戦いは始まった。激しく争っているが、レグルスの方が一発の火力が高い上に連発できる。不利なのは、ロズワールだ。 「エミリア、ロズっちが戦っている間に逃げるぞ。」 「えっ…?そんなこと…できるわけn…」 「できるできないじゃないんだ。ロズっちは自分の命を差し出してでもエミリアを助けたいんだ。それを今俺は悟った。それを無碍にするほうが失礼じゃないか?さぁ、覚悟を決めろ、エミリア。」 本心だった。だがそれは一部の理由でしかない。俺はエミリアを助けるためだったら何でもする。以前の俺だったらこんなことはしないかもしれないが、エキドナとの契約を散々貶して拒否した以上、エミリアを死なせるわけにはいかない。 「…そうね。分かった。スバルの言う通りだわ。」 「じゃあついてきて」 そう言ってこそこそと逃げる。ようやく屋敷から出た時に気がついた。 「あっ…ペテルギウスがいるんだった…」 「えっ?」 俺はとっさに振り向いて困惑の表情を浮かべている銀髪の少女に言う。 「エミリア!早く屋敷の中に!地下室の例の場所に逃げ…」 後ろに気配を感じた。背筋が凍りつく。もはや逃げられまい。 「ペテルギウス…」 「そう!私が魔女教大罪司教「怠惰」担当…ペテルギウス・ロマネコンティ…デス!」 「…。」 「これはこれは…勤勉な信者デスね…もうすでに魔女さまの器となり得る半魔の少女を捕らえているとは…。」 「お前、エミリアをそんな呼び方すんじゃねぇ!」 「ほう…。エミリア…と言うのデスね?その半魔は。」 「てめぇ…死にてぇのか?」 「これはこれは…何に怒っているのデスか?」 「そりゃお前n…」 ングッッッ…!脇腹を鋭い痛みが突き抜けた。続けて激しい痛みが腹全体から湧いてくる。目の前が真っ暗になる。なんだ…っ! 「スバルっ!」 「ようやく終わったよ。スバルくん。」 クソッ…レグルスのやつ、もう終わったのか…っ… 「アナタは…誰…デス…か?」 「人に名前を聞く前に名乗るなんてこと習わなくても知ってるよね?だいたい人に…」 「…うるさい…デス。長々と話に付き合ってやる義理はないデス」 なんだ…と?あいつの喋りを無理やり遮ったぞ…?! 「は…?人に名前を聞く前に名乗ることぐら…」 「アナタ…怠惰…デスね?」 精神異常者同士だと会話が成立しないのか…? 「何だと…?!死にたいのか!」 「望むところ…デス!」 (光学的に)見えざる手vs(物理的に)見えざる衝撃波…か。 だが結果は目に見えている… ----------------------------------------------------------------- …結果は分かっていた通りペテルギウスの完敗だった。 ズタズタに切り裂かれたペテルギウスを見るのは辛かったが、それよりも因果応報だという気持ちのほうが強かった。 「…さて。では僕は花嫁を連れて帰るとするか…。」 俺の横で治療をしてくれていた銀髪の少女は驚いて顔を上げ、震え出す。 「…どうしたんだい?君は僕と一緒に生きる運命なんだ。それを受け入れようよ。」 「…ゃです」 「なんだい?聞こえなかったな。」 「…い、嫌です!」 か弱い少女は立ち上がり、声の限り叫ぶ。 「あなたみたいに自分勝手な行動で人を安易に傷つけて、人からどんどん希望を奪っていく人なんかと結婚したくありません!」 レグルスの顔が憎悪に歪む。 「そうかい?君に選択肢など与えた覚えはないよ?」 「私が作るの…!貴方に決められたくない…!」 レグルスの眼に凶悪な光が浮かぶ。 「そうかい。では君が私と共にいくと言うまで10秒ごとにそこに横たわっている彼の腕と足を落としていくよ。」 「…っ!」 「…1、…2、…3、…4、…5、」 カウントは無慈悲に、正確に続けられる。 「…7、…8、…9、」 「分かった…!」 ダメだっ…!エミリア…! そう叫びたかったが痛みに溺れて声が出ない。 「…。そうかい。ようやく理解できたようだね?」 「…分かった…から、彼には指一本触れないで。」 …俺を気にしなくていいんだ…!エミリアさえ…エミリアさえ助かれば…!!…………………_______________ 「おい、兄弟、起きろ。朝だぞ?」 「早く起きるがいい、下臈が。」 …ん?なんでプリシラとアルがいるんだ…? 「ちょっとお姫さん…下臈は言い過ぎだって…」 「相応しい二つ名だろう?」 『______何度目かの記憶_____』1話(終)
作者:@Nikappu_Chitose https://novel.prcm.jp/novel/k500kW7UcCUxDYSwZkha